田中研究室生としての身の振り方

学部3年の半年間

ゼミは3年後期から始まります。これに備えて配属が決まった人には夏休みの自習課題を若干用意しています。10月からは毎週の英文輪講と報告会に参加します。報告会では4年生以上の研究報告を聞いて、研究への取り組み方やテーマに関する知識を得ていきます。最後に4年生の卒研発表会を聴講して次年度に備えます。

学部4年の1年間

4月には各自の研究テーマを決め、毎週の報告会で研究の進捗を発表するローテーションに入ります。最初はわからないことだらけでも、徐々にコツがつかめてくるはずです。12月頃から研究のまとめに入り、例年2月初めに卒研要旨の提出、2月中旬が卒研発表会です。発表会の直前3週間はバイト、遊びは出来ないと腹をくくるべし。

進学希望者には8月末頃と3月初旬に入学試験があります。一定の成績を納めていれば記述試験が免除されます。

修士1年の1年間

研究テーマには学部のときのテーマをそのまま選んでもいいし、新しいものに取り組んでも構いません。ローテーションをこなしつつ、当面の目標は秋と春の学会発表です。修士1年の終わりには中間発表がありますが、学会発表までに成果をまとめておくと、スムーズに乗り越えられることができます。学会を経験すると、学部3年生、4年生から先輩として指導を求められることが多くなります。講義科目をいくつか履修する必要がありますが、ほとんどの学生は修士1年でとり終えるようです。

修士2年の1年間

ローテーションをこなしつつ、当面の目標は秋の学会発表です。成果に応じ、いわゆるフルペーパーの執筆に取り組むことになります。12月中には修士論文をまとめはじめます。フルペーパーを書けていれば、修士論文を書くことは難しくないでしょう。2月中旬に修士論文提出、2月下旬の修士論文公聴会が天王山で、発表会後に修士の学位の審査が行われます。これをクリアすれば修士課程は終了です。

博士課程

修士課程(博士前期過程)に比べ、博士課程(博士後期課程)は学生から見るとなにかと謎が多いと思います。ここではまず博士課程について簡単に説明します。

大学を卒業すると学士(Bachelor、バチェラーと読む)という学位が大学から付与されます。理学部の学生ならば、付与される学位は理学士(Bachelor of Science)です。大学卒業の後、博士前期課程を修了すれば理学修士(Master of Science)を付与される。そして、さらに博士後期課程を修了すると付与される学位が理学博士(Doctor of Science)です。大学の世界で学位といった場合、通常は博士の学位のことを指します。

では、何のために学位を取るのかというと、端的に言うと研究者として認められるためです。分野にもよりますが、学位がないと大学や研究機関では採用してもらえないです。学位はいわば研究者の免許証のようなものなのです。

学位を取得するには、博士課程に在籍して研究業績をあげる必要があります。業績とは、要するに論文のことで、学会の論文誌や出版社の雑誌に自分の研究成果を掲載する必要があります(いくつ載せればいいかは専攻や分野によって異なるので、詳しくは指導教官に聞いてください)。博士課程に3年間在籍して講義を聴いてゼミに参加しても、この論文が書けないと学位を貰う事ができないのです。

実際には3年の間に論文を掲載できない人もいるので、在籍を延長したり、ひとまず退学してどこかの研究機関で働きながら論文を書く人もいます。一定年限までなら退学後も大学に学位を申請できる仕組みになっています。

終了後、研究職へ就くことを希望するなら、大学や研究機関の公募に応募することになります。公募の情報は、独立行政法人科学技術振興機構が運営するJREC-IN(Japan REsearch Career Information Network)のwebページがほぼ全部を網羅していますが、実際には、公募とは異なるプロセスで決まっていくポストも少なからずあります。例えば、博士課程の学生が、そのままその研究室のスタッフとして就職することもあります。

もし企業に就職する道を選ぶなら、修士卒と同じように就職活動をすることになります。しかし、企業に就職しようとすると、博士課程修了者は受け入れないという企業も多いです。企業にとっては学部や修士の「あまり色のついていない学生」を若い段階でとり込んで仕事を覚えさせ、長く仕事をさせるのが最も経済的なようです。

企業に就職するには博士課程修了者は一般に不利なわけですが、一方で今の企業が「明確な志向をもった学生」を求めているのも事実です。博士課程で行った研究は世界で唯一の成果なわけで、企業が強い関心を抱くようなテーマに取り組んだならばそれを武器に就職活動を行えば採用に有利に働くだろうと思います。これからの日本社会はそういう「とがった」人を必要としているので、情報科学の可能性を手掛かりに自分の将来を切り開いていくという選択はありだと思います。周囲と同じことをやっていてもいずれじり貧になるのが現実だとするならば、自分の可能性をじっくり試す場として博士課程を利用するという考えもこれからはありうるでしょう。博士課程に在学しながら起業の可能性を探るというのもいいかもしれない。GoogleやFacebookといった先進的なIT企業は皆そういった野心から生まれてきたのですから。

田中 賢